殿さま狸(蓑輪諒著)


天下分け目の関ヶ原の勝敗を左右する作戦を考え抜いた蜂須賀家政。

蓑輪諒氏の第2作目。私は三冊目。デビュー作の「うつろ屋軍師」、2作目の本書「殿さま狸」、3作目の「最低の軍師」、いずれも戦国時代をテーマにしているが、一般的な歴史小説で扱う人物ではないところがとても興味深いし、新鮮で、かつワクワク感がある。この所謂マイナーな主人公が、歴史の中でどう活躍し、所謂ヒーローと言われる人物に関わっていくのかという所が、そう思わせる。話の展開も、とても30歳そこそこの若者とは思えないくらい考えられ楽しいし、非常に勉強されている感が溢れている。

さて、今回の主人公は、豊臣秀吉の立身の側近である川並衆、蜂須賀小六ではなくて、その息子である、蜂須賀家政である。もちろん、読むまでは、全く知らない人物。しかし、阿波国(現在の徳島県)で、愛されている殿様とのことだ。徳島と言えば、開催が毎年のように危ぶまれている「阿波踊り」だが、その歌詞の中に、「阿波の殿さま蜂須賀さまが 今にの残せし阿波踊り」というフレーズがある。この小説の中では、家政が、若干30歳前後で、父親の棚ぼたの要素はあるが、阿波17万5700石の国主となる。その後、徳島城を建て、その完成落城式で、家政が率先して、身分に関係なく農民、商人が一緒に踊り続けたという、そういう逸話があるらしい。家政は、普通の人が考え付かないアイディア、人を思う心で、国と、そこに住む民を愛し続けた慕われた殿様だったようです。

徳島国主として入った際に、秀吉から7人の家臣が差し向けられてきた。通常の殿様なら、威厳を前に出し、「よろしく頼んだ」というようなことを言うだろうが、彼は悩んだ挙句心素直に「嫌々使えてもお互い楽しくない、もし、嫌になったら行先を責任もって探すから遠慮なく言ってほしい」ということをいう。

秀吉からは、側近の息子ということと、策に詰まった時に、不躾ながら策を進言し、実行に移し成功させることをはじめ、織田信長が本能寺の変で倒れたとき、姫路城を差配しており、兎に角上方からくる人を徹底的に調べ上げて、毛利にこの情報が渡らないようにすることに全力をあげたりしていた。秀吉には全幅の信頼を置いていたが、天下統一後の秀吉のおかしな振る舞いに疑問を感じづつ、蟄居になっても慕い申す姿勢を貫く。毛利の軍師堅田兵部との騙しあいに乗せられ、東軍(徳川家康)に着くよう、周囲の人たちに仕掛けていく。豊臣に恩がありつつも、阿波の国を守る決断をした証だった。関ヶ原までの間、石田三成とは旧知の仲で、アドバイスしたり、七人衆に追われているときに助けたりと徳川につきつつも世話を焼く。

天下分け目の関ヶ原では、堅田が家政を裏切り、西軍(石田三成)につき、毛利が総大将となり、徳川を破った後、豊臣も破り、天下を収める一発逆転の賭けに出る。家政は、若干15歳の初陣の至鎮(よししげ)を東軍に人質として参戦させている。本人は、大阪の阿波の屋敷に居る。すぐ傍には、西軍ばかりで、阿波を西軍に取り込もうと大阪城への登場を催促している。まさに、袋のネズミとなる。東軍を裏切り西軍につき息子を見殺しにするか、東軍として数万の西軍に、2千の兵で立ち向かうかの究極選択になる。

しかし、彼が考え抜いて選んだ道は、まったくそれとは違った道だった。一方、裏ではきちんと、小早川秀秋、吉川広家に対して内応工作を行う作戦も立てた。皆さんが知っているように、広家は動かず、秀秋は裏切り、で、西軍はあっという間に負けてしまったという訳。歴史を動かしているね。

非常に面白い展開でした。歴史小説っておもしろい。

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