ディープテック(丸幸弘、尾原和啓)
新興国の東南アジアのディープイシューを日本の技術を使ってディープテックで解決することでイノベーションを起こせる、という内容。
SDGs(持続可能な開発目標)、ダイバーシティ(多様性)、サーキュラーエコノミー(循環型経済)がキーワード。
本当のイノベーションを起こしたいのなら、サステナブルなビジネスを前提としたPDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルでは起こせない。QPMI(Quality,Question→Person,Passion→Member,Mission→Innovation,Invention)、質の高い問題に対して、個人が崇高なまでの情熱を傾け、信頼できる仲間たちと共有できる目的に変え、解決する。そして諦めずに試行錯誤を続けていれば、革新や発明を起こすことができる、が道であると。
そのために、Qualityの高いQuestionに出会うための5つの方法は、以下とのこと。
- 自分たちの常識を捨てる
- 目の前の売上や利益の概念を捨てる
- 長期的視点と短期(1年先)の具体的イメージを持つ
- 『初めて』を連続してやる
- 上記4項目を持たうえで、現場の若いベンチャーと話す
本の流れとしては、今更シリコンバレーではなく、これから人口が爆発する東南アジアに直に足を運び、現場で起きている課題を認識すること、また、東南アジアで盛んにおこなわれているディープイシューをディープテックで解決する流れを抑えることが、大きなイノベーションを起こすきっかけになる。特に、日本には、それら課題を解決する古い技術を多く持っておりチャンスは存在している。決して、新しい技術だけがイノベーションを起こす訳ではない、というものである。地理的にも、日本はシーズの欧米圏からヒントを得て、マーケットである東南アジアに近い好立地にある。
では、ディープテックとは何か?
- 社会的インパクトが大きい
- ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する
- 上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要
- 知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームといった観点から参入障壁が高いもの
- 社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その課題のあり方を変えるもの
本書では、そういった例をいくつか挙げている。
- インドネシア、マレーシアで生産されるパーム油の搾りかす放置で発生するメタンガスを日本の技術と現地のベンチャーの技術で、鶏の餌に必要な成長促進剤「マンナン」を抽出することに成功した「by-product」の話。
- イギリスのサブスクリプション型カーレンタルサービス
- 炭素繊維強化プラスチックの中に、メタンガスを多孔性金属錯体の吸着させ、孤島の生活を変える話
- Uber、Grab、Airbnb、AirCloset、TeslaなどのサステナブルPSSD(Product,Service,System,Design)の考えを取り入れたサービス、商品
- 視覚障害への点字変換アプリ
- 塩小さじ2杯と水を使った電気発生商品
- ブレードのない風力発電垂直軸型マグナス式風力発電機
- 日本の発酵・醸造のファーメンステーション技術を用いた米からエタノールを作って化粧品。
- ユーグレナのミドリムシ、アルコール、陸上魚養殖。
- ブリングの古着繊維の再原料化
- DG TAKANOのBubble90(95%水量削減)
欧米では苦手とし、日本を含むアジアが得意とする相利共生領域が、次のイノベーションの柱となる。欧米は、投資という形で対処しているが、日本は技術提供、商品として絡むことができるのではないか、と投げかけている。
非常に読みやすいし、内容も新しく、興味深いテーマで面白かったです。